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% 脱出関数

nptのドキュメントです。
参照元:ANSI Common Lisp npt
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3.1 脱出関数とは

脱出関数とは、脱出が行われる可能性のある関数のことです。
以前、脱出関数とはerrorが生じる可能性のある関数だと説明しました。
しかし脱出とはerrorだけを意味するものではありません。

脱出とは、現在の処理を中断し、スタックフレームを 強制的に終わらせる命令のことを意味します。
脱出の要因となる命令は、次の5つ存在します。

つまり、実行の流れを大きく変更し、 別のスタックフレームにジャンプすることを脱出と呼びます。

脱出はC言語のsetjmp/longjmp、C++言語のtry/catchのようなものです。
しかしnptではこれらの機能を使わず、 ただ脱出関数を終了させることで脱出を実現しています。

脱出関数とは何らかの技術のことを言っているのではなく、 C言語で関数を作成するときの決まり事のことです。
これから説明する決まり事を守ることで、 Common Lispの動作を実現できるようになります。

3.2 脱出関数の作成

例文を用いて脱出関数の作成を説明します。

int test(void)
{
    lisp_format8_(NULL, "Start~%", NULL);
    lisp_funcall8_(NULL, "TEST-THROW", NULL);
    lisp_format8_(NULL, "End~%", NULL);

    return 0;
}

脱出関数の名前はアンダーバー_で終わるので、 例文にあるlisp_format8_lisp_funcall8_は脱出関数です。

test関数では、脱出関数の戻り値を全て無視していますが、 本来であれば正しく処理する必要があります。
正しい脱出関数に書き換えたものを下記に示します。

int test_(void)
{
    if (lisp_format8_(NULL, "Start~%", NULL))
        return 1;
    if (lisp_funcall8_(NULL, "TEST-THROW", NULL))
        return 1;
    if (lisp_format8_(NULL, "End~%", NULL))
        return 1;

    return 0;
}

それぞれの脱出関数が値を返却した場合に return 1を実行することで、 正しい脱出関数test_を作成できました。

ここで、test-throw関数が次のように定義されているとします。

(defun test-throw ()
  (throw 'hello 999))

test_lisp_funcall8_を実行して test-throwを呼び出したとき、 対応するcatchが存在するならばthrowが実施されるので、 lisp_funcall8_関数は1を返却します。

するとtest_関数もそのままreturn 1が実行されるため、 次のformat文は実行されずにtest_関数が終了します。

このようにして脱出が実現されます。

3.3 lisp_push_controlがある場合

通常の関数test内でlisp_push_controlが使用されているとします。

int test(void)
{
    addr control, v;

    lisp_push_control(&control);
    v = Lisp_hold();
    lisp_format8_(NULL, "Start~%", NULL);
    lisp_funcall8_(v, "TEST-THROW", NULL);
    lisp_format8_(NULL, "End: ~A~%", v, NULL);
    lisp_pop_control_(control);

    return 0;
}

脱出関数に書き換える際、push / popで囲まれている文は、 もし脱出が生じた場合でもすぐにreturn 1を実行するのではなく、 必ずpopしてスタックフレームを解放する必要があります。
例えば次のように変更します。

int test_(void)
{
    addr control, v;

    lisp_push_control(&control);
    v = Lisp_hold();
    if (lisp_format8_(NULL, "Start~%", NULL))
        goto escape;
    if (lisp_funcall8_(v, "TEST-THROW", NULL))
        goto escape;
    if (lisp_format8_(NULL, "End: ~A~%", v, NULL))
        goto escape;
escape:
    return lisp_pop_control_(control);
}

例文のように単純な場合はgotoを用いても問題ありませんが、 複雑な構文になると分かりづらくなってしまいます。
そこで、nptの開発では次のような書き換えを行っていました。

static int test_call_(void)
{
    addr v;

    v = Lisp_hold();
    if (lisp_format8_(NULL, "Start~%", NULL))
        return 1;
    if (lisp_funcall8_(v, "TEST-THROW", NULL))
        return 1;
    if (lisp_format8_(NULL, "End: ~A~%", v, NULL))
        return 1;

    return 0;
}

int test_(void)
{
    addr control;

    lisp_push_control(&control);
    (void)test_call_();
    return lisp_pop_control_(control);
}

さらに例文では、脱出の判定を行う際に

if (...)
    return 1;

という文を多用しますが、 この構文は非常に多くの場所で使用するため、 下記のようなマクロを作成します。

#define Return(x) {if (x) return 1;}

このマクロを用いることで、test_call_関数は次のように書き換えることができます。

static int test_call_(void)
{
    addr v;

    v = Lisp_hold();
    Return(lisp_format8_(NULL, "Start~%", NULL));
    Return(lisp_funcall8_(v, "TEST-THROW", NULL));
    Return(lisp_format8_(NULL, "End: ~A~%", v, NULL));

    return 0;
}

脱出関数を多く作成する予定があるのであれば、 この単純なマクロが非常に使いやすいので 使用を検討してみるのも良いかと思います。

まとめますと、脱出関数は次のような規則を課したものを言います。

3.4 階乗の例を書き換える

前章(hold変数の使い方)では、 階乗を出力する例文を作りました。
しかし説明の都合上エラー処理を行っていなかったため、 脱出関数の戻り値をすべて無視していました。

正しい脱出関数に書き換えたものを下記に示します。

static int fact_(addr x, addr value)
{
    addr control, y;

    if (! lisp_plus_p(value)) {
        lisp_fixnum(x, 1);
        return 0;
    }

    lisp_push_control(&control);
    y = Lisp_hold();
    if (lisp_funcall8_(y, "1-", value, NULL))
        goto escape;
    if (fact_(y, y))
        goto escape;
    if (lisp_funcall8_(x, "*", value, y, NULL))
        goto escape;
escape:
    return lisp_pop_control_(control);
}

int main_lisp(void *ignore)
{
    addr control, x, y;

    lisp_push_control(&control);
    x = Lisp_hold();
    y = Lisp_hold();
    lisp_fixnum(y, 123);
    if (fact_(x, y))
        goto escape;
    if (lisp_format8_(NULL, "fact: ~A! = ~A~%", y, x, NULL))
        goto escape;
escape:
    return lisp_pop_control_(control);
}

例文のfact_関数はこれ以上修正の必要が無い完成されたものになります。